人事・労務に関する内容証明 |
労働契約・就業規則・誓約書・身元保証人 |
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●労働契約 職場において、労働関係をめぐる書類を作成するにあたり、何よりも注意しなければならないのは雇用契約です。労働契約は双方の合意さえあれば何でも自由に契約できるというものではなく、労働基準法その他一連の労働法規によって色々の制約があり、これに反する取り決めは、単に契約として無効となるばかりでなく、場合によっては一定の罰則を適用されます。 ●就業規則 常時10人以上の従業員を使用する使用者は必ず就業規則を作成して、これを所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法89条)。この就業規則は個々の労働契約以上の強力な効力を持っています。個別に労働契約を結んでも、それに定める労働条件が就業規則に定める基準に達しない場合は、その部分が無効となり、無効部分は就業規則の定める基準どおりに修正されてしまいます。 就業規則には、解雇理由を記載しなければなりません(労働基準法89条3号)。 使用者としては、考えられる限りの解雇理由を列挙することになります。 裁判で解雇理由が争点になった場合は、まず使用者に、その解雇理由が就業規則のどれに基づくものかを援用(自己の利益のためにある事実を提示し主張すること)させて、その解雇理由に該当すると判断する元になった基本的事実を主張させることになります。 ●誓約書 入社のときの誓約書に関して、多くの会社では、入社と同時に身元保証書と一緒に提出させている例があります。法律的効果は就業規則なり労働協約によって左右されることが多く、その場合誓約書の内容はその中に吸収されることになります。誓約書違反の場合における責任追及の仕方は、就業規則の懲戒条項によることが多いのですから、誓約書自身のみによって責任を追及するということはまずありません。 ●身元保証人 身元保証は被用者が使用者に対して生じさせた損害を賠償するものですが、被用者が会社に認められて(例えば部長に昇進)もまだ保証人に責任があるというのでは、保証人の地位はまったく不安定なものです。ですから被用者が転勤になったり、職務内容が大幅に変更されたときは、必ず書面で解約を通知すべきです。これは内容証明ですると確実です。 逆に使用者側から身元保証人に損害賠償を請求する場合で注意する点があります。例えば、入社7年目の社員の過失により、会社は多大な損害を被り、本人には賠償能力がなく、入社時に身元保証書を提出させているので、身元保証人に損害賠償を請求する場合、損害賠償を請求できるでしょうか?答えは、身元保証人に損害賠償を請求することはできません。 身元保証の期間は「身元保証に関する法律」により、期間を定める場合には最長5年と規定されており、たとえ5年を超える期間を定めたとしても5年となります(身元保証に関する法律2条)。また、期間を定めない場合の有効期間は3年とされています(身元保証に関する法律1条)。なお、身元保証期間を更新することはできますが、自動更新条項を設けても無効とされます(身元保証に関する法律6条)。 したがって、今回の場合では期間の定めがあったのかなかったのかは定かではありませんが、入社7年目の社員についての入社時の身元保証書ということであれば、いずれにしても有効期間切れということになり、身元保証人に損害賠償を請求することはできません。 身元保証書については、入社時に提出させてそれっきりという会社も多いですが、身元保証を継続させたいのであれば、期限が来たら改めて提出してもらうように注意してください。 ●解雇 解雇の通知は、口頭、掲示、予告と文書通達によって行われます。会社側の解雇の意思表示は、相手に到達したと認められる限り、たとえ従業員の反対があるからといって、効力が生じないということはありません。しかし問題の発生が予想されるような場合には、あとで色々と文句を言われないように、解雇の言い渡しに立会人をおくとか、自宅宛の通知書は配達証明付きの内容証明を利用するとかの方法をとるべきです。 労働者を解雇する場合、期限付雇用契約の場合を除いて、解雇予告の手続きをしなければならず、この場合、30日前に予告したときは、予告手当て(平均賃金の30日分)を支払う必要はありませんが、予告した日が解雇日前の30日以内であれば、その不足日数だけの予告手当てを支払わなければなりません(労働基準法20条)。 人事に関する最終的な権限はもちろん使用者にありますが、労働組合の強い会社では組合との間に「解雇するときは組合の同意を要する」との協定を結ぶことがあります。この協定があるときは、事前に労働組合との間で同意の手続きをとらないとその解雇は無効であるとの判例がありますので注意が必要です。 ●整理解雇 整理解雇とは、使用者側の、経営事情による人員削減のことです。整理解雇についても、解雇権濫用の法理(労働基準法18条の2)が適用され、解雇権の濫用と認められるときは、その整理解雇は無効となります。その判断の基準は判例によって確立されており、「整理解雇の4要件」と呼ばれています。この4要件をクリアしていない整理解雇は、解雇権の濫用とされ無効となります。
●退職 職員の退職・転職の届けは、雇用契約の解約申し入れという形になるわけですが、従業員が勝手に退職願を出して、その翌日から姿を見せなくてもよいというものではありません。原則として2週間後でなくてはなりません(民法627条)。 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができます。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負います(民法628条)。 退職時等の証明 ただし、解雇理由の証明書は、たんに使用者側の主張する解雇理由を明らかにするだけのものですから、労働者がこの証明書を請求して、それを受領したと しても、それで解雇を認めたことにはなりません。 この場合にも、解雇権濫用における立証責任については、使用者にこの明示した解雇理由を援用(自己の利益のためにある事実を提示し主張すること)させて、その解雇理由に該当すると判断する元になった基本的事実を主張させることになります。 退職金 退職金請求権が発生するためには、就業規則や労働協約などによって、その支給基準が明確に定められていることが必要です。就業規則や労働協約などによる定めがない場合でも、慣行、個別合意、従業員代表の合意などにより、支給金額の算定が可能な程度に明確に定まっていれば、退職金請求権は認められます。したがって、なんらの合意も慣行もなければ、退職金請求権はないということになります。 判例では、功労増額退職金につき支給条件が不明確であって、使用者の裁量的判断を必要とするものであるとして、退職金請求権を否定したものとか、上積み退職金を支払う確立した慣行の存在や、退職金共済制度に加入する旨の求人票上の記載から、同請求権の存在を肯定したものがあります。 退職事由 では、「自己都合退職か会社都合退職か」の判断基準は何でしょうか。それについては、退職に至るまでの具体的な事情を総合的に判断して決定することになります。 労働者が勤務を継続することに障害があったかどうか、その障害が使用者あるいは労働者のいずれの責任に帰せられるか、退職の理由が使用者、労働者のいずれの支配領域内で起きたものか、などの諸要素を勘案して判断されます。 例えば、賃金不払いを理由に、労働者が労働契約の解除を申し入れたケースで、やむを得ない業務上の都合による解雇に準じ、会社都合の退職金の支払いを命じたという判例もあります。 ●個別労働紛争解決に係る「あっせん申請書」 個別労働紛争解決促進法に基づき、紛争当事者は都道府県労働局長に対し、紛争解決のための指導・助言、解決のためのあっせんを申請することができます。 対象となる紛争は、配置転換、転籍出向、解雇の有効性、整理解雇、就業規則の変更に伴う労働条件の変更、雇止め、職場でのセクハラなどの個別労働関係紛争です。なお、労働争議等は対象とはなりません。 あっせんの申請は、あっせん申請書に必要事項を記載の上、紛争当事者である労働者に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出してください。郵送等の提出も可能です。 なお、事業主は、労働者があっせん申請をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされています。 詳しくはこちらをご覧ください→あっせん申請書 ※その他、人事・労務に関するトラブルの一例を挙げてみました。
賃金・給与明細書・休業手当・セクハラ●賃金 賃金に関しては、労働基準法24条に「賃金支払いの原則」が書かれています。
(1)通貨払いの原則 通貨とは、具体的には日本銀行券(紙幣)と独立行政法人造幣局が鋳造した硬貨のことです。 例外(A) (b)退職金について、労働者の同意を得た場合には、[1]銀行等の金融機関から振り出された当該金融機関を支払人とする小切手を、労働者本人に交付すること、[2]金融機関が支払い保証をした小切手もしくは郵便為替を、当該労働者に交付すること、のいずれかが認められています。 例外(B)・・・労働協約による現物支給ができます。 (2)直接払いの原則 (3)全額払いの原則 労使協定によって、一部控除が許されています。行政通達により「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、労働基準法36条1項の時間外労働と同様の労使協定によるもの」とされています。 使用者が労働者の債務不履行や、不法行為を理由とする損害賠償債権を自動債権として、労働者の賃金債権と相殺することは、許されません。 判例では、過払賃金の精算のための調整的相殺は、過払いのあった時期と賃金精算調整の実を失わない程度に、合理的に接着した時期に、あらかじめ労働者に予告されるとか、その額が多額に渡らないとか、労働者の経済生活をおびやかすおそれのない場合は、有効とされています。 また判例では、労働者との合意で行う相殺は、賃金債権の放棄が、労働者の自由な意志に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が、客観的に存在する場合に限って有効とされています。 (4)毎月払い、定期日払いの原則 ●給与明細書 まず、毎月の給与の明細書を簡単に分類すると、以下のようになります。
ここで、もし雇用者がこのような給与明細書を出さなかった場合はどうなるのでしょうか。 会社は、賃金の額、氏名、労働日数、労働時間数、基本給、手当その他の金額等につき、賃金台帳を作成して記載し(労働基準法108条)、その台帳は、少なくとも3年間は保存しなければなりません(労働基準法109条)。 給与明細書は、労働者にとって自己の報酬が正当に支給されているか否かを把握するために必要不可欠なものです。よって、雇用者の給与支払義務に付随するものとして、当然に発行・交付を請求することができます。また、過去の記録についても賃金台帳の閲覧もしくは複写を請求することができると考えます。 その他には、所得税を源泉徴収したことの記録である源泉徴収票にて確認するという方法もあります。一般の会社では、所得税を源泉徴収しているところが多いのですが、源泉徴収票は、本人が交付の請求をしなくても事業主が自ら進んで交付することが義務づけられています(所得税法226条1項)。これに違反した場合には、罰則があります(所得税法242条条1項)。 源泉徴収票には給与額の記載があるはずなので、源泉徴収票を請求して、正当に給与が支給されているか否かを把握した上で、未払い支給額があれば直ちに支払いを請求することができます。 ●休業手当 使用者に帰責事由がある休業については、原則として、労働者は賃金の全額を請求できます(労働基準法26条)。この規定は、休業中の賃金のうち、平均賃金の6割に当たる部分の支払いを罰則をもって確保することで、労働者の最低生活を保障しようというものです。 もしも、60%未満の休業手当しか支給されなかった場合には、労働者は、賃金全額との差額分を請求できます。但し、就業規則、労働協約、労働契約で特段の定めがある場合はそれによりますが、その場合でも労働基準法26条を下回る事はできません。 民法536条2項では、働けなくなった原因がもっぱら会社の責めに帰すべき事由による場合、「反対給付」すなわち賃金を受ける権利を失わないとしています。「責めに帰すべき事由」とは、会社の故意・過失による行為または信義則上これと同視すべき事情をいいます。 労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」とは、判例によると、使用者側に起因する経営、管理上の障害は労働基準法26条の帰責事由です。例えば、機械の検査、原材料の欠乏、流通機構の不円滑による材料入手困難、監督官庁の勧告による操業停止、親会社の経営難による資金・資材の獲得困難などです。 では、不可抗力の場合はどうでしょうか。不可抗力とは、天災事変その他使用者としてなすすべもない事情をいいます。例えば、台風の影響で会社が数ヶ月間休業になった場合の賃金はどうなるのでしょうか。 ノーワーク・ノーペイという原則がありますが、賃金についてはこれが当てはまります。よって会社の休業中は仕事がない以上、賃金をもらえないのが原則です。 もともと労働基準法による休業手当は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に限定していますので、不可抗力の場合にだけ使用者を免責させるのが妥当であると解されています。 ところで台風による休業という事態は、使用者として、民法536条2項にいう責めに帰すべき事由に該当しないことはもちろん、労働基準法26条の帰責事由にも該当しません。休業は不可抗力によるとみるべきです。したがって、法律上は、賃金ないし休業手当を請求することはできないことになります。 では、賃金または休業手当が請求できないのであれば、年次有給休暇を消化するという方法は認められるのでしょうか。 年次有給休暇の制度は、本来労働義務があることを前提に例外的に権利として労働義務から開放されることを保障した制度です。労働者がリフレッシュするため、あるいは従属労働の日々から人間性を回復するためであると言われています。したがって、台風などの災害休業の場合も労働義務がない以上、年次有給休暇を請求する余地はないことになります。 ●セクハラ 男女雇用機会均等法21条にセクハラについての規定があります。 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない(男女雇用機会均等法21条1項)。 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が配慮すべき事項についての指針を定めるものとする(男女雇用機会均等法21条2項)。 この規定に基づき定められた指針によると、職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)には、「対価型セクシュアルハラスメント(セクハラ)」と「環境型セクシュアルハラスメント(セクハラ)」があります。 「対価型セクシュアルハラスメント(セクハラ)」とは、職場において行われる性的な言動に対する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受けるものです。 「環境型セクシュアルハラスメント(セクハラ)」とは、当該性的な言動により女性労働者の就業環境が害されるものです。 また、この指針で雇用管理上配慮すべき事項として、以下の通り定められています。 (1)セクハラに対する方針を明確にして従業員に周知すること。 使用者が、これらの義務を履行したかどうかが、セクハラが発生したときの使用者責任の免除や不法行為における過失の判断に影響します。 加害者に対しては、「働きやすい職場環境のなかで働く利益」を侵害する行為として、民法上の不法行為となります。 この場合は、被害者は加害者に対し、精神的苦痛に対する慰謝料を損害賠償として請求できます。さらに、被害者が意に反して退職した場合には、セクハラ行為と退職の間に相当因果関係が認められる限りにおいて、退職による滅失利益も損害に含まれます。 使用者は、被用者がセクハラを行い、それが不法行為に該当する場合には、被害者に対して損害賠償を負うことがあります。使用者責任は、当該セクハラが「事業の執行につき」なされたときに成立します。 また、使用者には「働きやすい環境を保つように配慮する注意義務」があるところから、管理者のセクハラへの対応に関する義務違反によるところの不法行為を通して、使用者責任が追及されます。
※上記は一例であり、実際には様々な事実・利害関係があります。十人十色と言いますが、「私の場合はこうなのだけれど・・・」という場合は、渡辺行政書士事務所にご相談ください。内容証明に限らず、様々な提案をさせていただきます。
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